オーストラリアのシドニーは移民によって成り立つ国家です。特に初期のころの英国系の人たちが中心であった時代の食文化は、シンプルで質実剛健な英国料理しかなかったのですが、のちに移民であるイタリア系の人々が持ち込んだイタリア料理によって一気にオーストラリアの食文化が花開いたと言われるくらい影響力がありました。
シドニー市内からバスで西に向かって約30分弱ほど行ったところにある、ライカート(Leichhardt)からハーバーフィールド(Harbour Field)という町の一体がイタリアンタウンとして知られています。イタリア系オーストラリア人はオーストラリ全体で6番目に多い移民数を誇り人口の約5%を占めています。(ちなみに日本人の割合は0.16%)街を歩いている人の20人に1人がイタリア系という事になります。
かつてはイタリア料理を食べたければ、ライカートのノートンストリート(Norton street)を目指せ。と言われていましたが今ではその名声はハーバーフィールドのラムジーストリート((Ramsay street)に取って代わられたようです。
レストランが密集していて競争も厳しいので、どこで食べても味で失敗することはほとんどありませんが、家族のようにフレンドリーに接してくれる店もあれば、常連客以外には笑顔を見せてはいけないというルールでも課しているかのような不愛想な店もあります。
そういった中でも料理、サービスともに頭一つ抜け出ている名店が、ラ ディスフィーダ (La Disfida)です。特に職人が流れるような早業で作り上げたピザを、専用の大きな窯で一気に焼き上げられたピザの美味しさはシドニーで一番と言われるほどです。
店はバスもひんぱんに通るストリート沿いに面しているので、景色などは望めませんが2階席のテラス席は少しオープンスペースになっているので風も入って開放的な気分に浸れます。
ラ ディスフィーダに来てピザをオーダーしなければ店から追い出されます。と言うのはもちろん冗談ですが、ここでピザを食べなければ、いったいいつどこで食べるのか? と聞きたくなるくらいです。一応イタリアンのレストランですが、店名にもあるようにLa Disfida Pizzeriaとピザを売りにしていることが分かります。
ピザの調理はまずボール状のピザドウを器用に手で薄く伸ばしていくところから始まります。指の上でクルクルとスピンさせながらあっという間にピザベースの出来上がりです。それが終わるとすぐに種類に合わせてトッピングです。すべて目分量でざっくりと適当に乗せているように見えますが職人の頭の中ではきっちりと計量されているのです。
そしていよいよ焼き上げに入ります。業火たぎる窯の中に次々と投入されていきます。中の火加減を見ながら、ピザの配置を考えて置いていきます。あまりの高温なので5mほど離れていても熱く感じるほどです。
超高温でほんの数分で焼きあがったばかりのピザは、薄くてクリスピーなベースにトロトロに溶けたたっぷりのチーズが表面で揺らいでいるのが見えます。出来立てのアツアツの所をかぶりつくとまず間違いなく上あごを火傷してしまいます。
持ち上げようとすると、あまりにも薄いので両手で持たないと片側がペロンと垂れ下がってしまいます。でもこの薄さのおかげでサイズの割には一人で半分くらいは軽く食べられてしまいます。
ピザの種類は多くて迷いますが、何枚か頼むのならそのうちの1枚はぜひシンプルなマルゲリータ(Margherita) を頼むのが良いでしょう。たっぷりのチーズとシンプルなソースがダイレクトに味わえるこれぞイタリアンピザと呼べるものです。
ピザレストランを名乗っているのでピザだけで終わりかと思ったら大間違いです。そんなことでは、この激戦区の中でこれほどの名声を得ることは出来ないでしょう。
通常のメニューもちゃんと用意されているのですが、特筆すべきはその日のおすすめメニューの多さです。背丈ほどもある黒板にびっしりと書き込まれた、おすすめメニューの数々には圧倒されてしまうほどです。
そしてそれを説明してくれるウェーターが全て覚えていて、お客さんの顔を見ながらすべて説明してくれるのには感心してしまいます。英語とイタリア語の混在する説明はとても全て理解できるものではないですし、あまりにも種類が多いので迷ってしまいましたが、取りあえず理解できたヒラマサのカルパッチョだけを特別メニューから選んで、あとは無難に通常メニューから選びました。
写真は左端が厚く切ったモッツァレラチーズとバジルの葉をトマトに挟んでオリーブオイルをかけたもの。真ん中がアランチーニ(ライスで作ったコロッケ)、そして一番右がヒラマサのカルパッチョ。これらはすべて前菜ですが、どれも新鮮な食材を使い贅沢にかつ丁寧に作られており一切の手抜きは見当たりません。カルパッチョは刺身で使うヒラマサをさらに薄切りにして、オリーブオイルソースをかけたものでさっぱりとしていて多くの日本人の口に合うと思います。
今回頼んだ上の三品はどれもソースの味で勝負するのではなく、シンプルに素材の味を生かした味付けなのであっさりと飽きずに食べることが出来ました。イタリア料理と日本料理は結構似ているところが有ると新たな発見をしました。
イタリア人に限らずともオーストラリア人とワインは切り離す事の出来ない関係にあります。友人の家に行くにもワインボトルを持っていくのはもはや常識と言うかマナーです。当然レストランに行くとソムリエと相談しながらワインを注文します。アルコールを提供できないタイプの店もあるのでその場合は、近くの酒屋で買って自分で持ち込むことになります。
ラ ディスフィーダではワインのリストも充実しています。グラス1杯からのオーダーからボトル1本でスパークリング、白、赤とあり産地も地元オーストラリア産から、ニュージーランド産、そしてイタリア産まで豊富に用意されています。お酒を飲めない人のためにも炭酸水からノンアルコールの飲み物と豊富にあるので子供連れでも安心です。
そして前菜とピザで膨らんだお腹にまだ余裕があるという人は、イタリアンデザートもあります。日本でも人気のティラミス、ジェラートなどと合わせて締めのコーヒーまで楽しんでようやくラ ディスフィーダでのディナーは終了です。
陽気な店員たちは本当に楽しみながら仕事をしているので、ついついこちらまで楽しい気分になります。飛び交う言葉も店員同士ではイタリア語がメインのようです。何かを持って来てもらった時には、サンキューではなく、グラッツィエとイタリア語でお礼を言ってみると喜んでもらえてぐっと距離が縮まった気がします。
オープンと同時に行列のできる店であるにもかかわらず、営業日は水、木、金、土、日のディナーだけなので要注意です。また予約も団体以外は基本的に受け付けていないので、どうしても食べたい場合はオープンと同時に店に入るのが良いでしょう。
いつ行っても何を食べても、必ず満足できること請け合いです。